イエネコは野生じゃない

私たちと一緒に暮らしているネコ(イエネコと呼ばれる種)ですが、よく「ネコは野生でも生きていける」と勘違いしている人がいますよね。

 

実はアフリカやアメリカに生息する野生のネコと私たちの家族として暮らす「イエネコ」は、全く種類が違う生き物です。

 

野生のネコは本能のままに狩りをし、子育てをしながら単独で、あるいはライオンのように群れを作って自分たちだけで生きていきます。

 

しかし、イエネコは面倒見てくれる人がいないと基本的には生きていけないのです。

もともと野生のネコだったものを、人間が家畜化して作られたのがイエネコといわれる種類なので、先祖のように単独では生きていけないわけです。

 

そもそもイエネコの祖先はどんな猫だったのでしょうか?

それはずばり!「リビアヤマネコ」という猫種です。

 

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どことなく日本にいるキジトラに似ていますが、やや足が長いのと精悍な顔つきがイエネコとは異なるようですね。

 

リビアヤマネコは英語でAfrican Wildcat(アフリカン ワイルドキャット)とか Desert Cat(デザートキャット=砂漠のネコ)といいます。

 

つまり、北アフリカアラビア半島の砂漠地帯に住む生き物だったわけです。

砂漠地帯に住むネコなので、十分に水分補給しなくても生きていけましたが、その分、

おしっこが凝縮されて濃くなります。

 

イエネコを含め、ネコ科の動物たちのおしっこが濃くて臭いのはこういう理由があるのです。

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リビアヤマネコとイエネコの比較】

・被毛(ひもう) 

 リビアヤマネコの被毛はベースカラーが砂のようなグレーががった薄茶色。

日本にいるキジトラに比べて若干、色味が薄いのが特徴です。

 

・模様

体全体に褐色や黒色の縞模様があり、額のところには「M」に見える縞模様と、目じりから現れるクレオパトラ・ラインが入っているのは、イエネコとよく似ています。

 

・体

イエネコに比べて四肢(しし=4本の足)が長いのが特徴で、耳も大きくて野性味を帯びているところがキジトラと異なっています。

 

・食事、狩り

リビアヤマネコは夜行性で、小さいな昆虫や爬虫類、小動物、鳥などを捕食します。

耳が大きいのはほんの小さな音も聞き逃さないため。

このために小動物が立てるかすかな物音も聞き逃しません。

 

また、砂漠に住んでいるためほとんど水を飲まず、水分は獲物から補給します。

イエネコがなかなか水を飲んでくれないのは、こういう性質を受け継いでいるからなのでしょうね。

 

・性格

リビアヤマネコがイエネコの祖先ではないかと考えられるようになったのは、2007年のDNA鑑定が行われるようになってからですが、その前からイエネコの祖先がリビアヤマネコではないかと考えられてきました。

 

その理由のがよく似た外見ともう一つは「性格」です。

ワイルドキャットの多くは幼少期から人間に育てられてもその野性味を失うことは少ないのですが、リビアヤマネコの場合は幼いころから人間に育てられるとよく懐く性格があります。

 

猫が家畜化されたのは人が農作物を作って暮らすようになってからですが、他の野生ネコに比べてリビアヤマネコはちょくちょく人の暮らしの中に姿を現したりして、警戒心が薄かったからかもしれません。

 

リビアヤマネコが人と暮らすようになったワケ】

リビアヤマネコと人間の距離が近くなったのは、人が農耕で生活を立てるようになったことに関係します。

 

リビアヤマネコの生息地である北アフリカや中東地帯は肥沃な穀倉地帯であり、穀物の生産が盛んにおこなわれるようになりました。

 

それに伴って、穀物を食い荒らすネズミの被害も拡大していきます。

そのネズミを捕食してきたのがリビアヤマネコだったというわけです。

 

ネズミを退治してくれるリビアヤマネコを人は大切にしました。

リビアヤマネコも自分たちを大切に見守ってくれる人に警戒心を薄れさせていきました。

 

こうして人とリビアヤマネコの共存生活が始まったと考えられています。

人は猫に命じてネズミ退治をさせるのではなく、「君たちの邪魔をしないからネズミを捕ってね」という、お互いの利害が一致した結果なので、ネコは野性味を失うことなく人と一緒に暮らすようになったわけです。

 

人間との関係がもっぱら主従関係による犬に比べて、ネコはその習性を大きく変えることなく人間のコンパニオンアニマル(伴侶動物)となっていきました。

 

この猫の狩りをする習性が大きく変化することが無いお蔭で、現代のイエネコも時々、虫や小鳥を捕まえることがあります。

 

その成果を見せに来てくれるのは、ちょっと困ってしまいますが、当の本人は自慢げに見せに来るので、ついつい褒めてしまうのですが(笑)

 

愛玩動物になった歴史】

ネズミなど穀物倉庫の害獣を捕食させる目的以外で、いわゆる愛玩動物として猫を飼うようになったのが古代エジプトです。

 

それはエジプトの壁画にも猫の絵が描かれており、ミイラも発見されました。約4000年前の古代エジプト時代にリビアヤマネコから「イエネコ」という猫種として固定化されたと考えられています。

 

猫の可愛らしさにメロメロになるのは洋の東西や時代を問わなかったということでしょう。

エジプトで猫は神の使いとして大事にされていました。バステト神の写真やオブジェをご覧になったことがある人も多いでしょう。

 

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こうして人間に可愛がられ、大切にされ続けることにより、野生のネコとしての獰猛さが影をひそめ、人とともに生きるイエネコという猫種に変化したのです。

 

【ヤマネコ・イエネコ・野良猫の比較】

・ヤマネコ

 リビアヤマネコを始めとするワイルドキャットは山や森、砂漠にすみ、狩りをして生きています。人間の愛玩動物や家畜とは全く違います。

 

・イエネコ

リビアヤマネコが長い年月をかけて人と共存するコンパニオンアニマルに変化した猫種です。

人と一緒に生きる動物ですから、捨てられても一人で(一匹で)生きていけるというのは大きな間違いです。

 

・野良猫

捨てられ、飼い主のいなくなったイエネコです。

人がいないと生きていけないので、基本的に人間の生活圏内で共存しています。

 

野生のネコと違いますから単独で、あるいは群れ同士だけで生き延びることはできません。

 

基本的にはイエネコですから、人に捨てられたことで生活の場を失ったネコと言えます。「野良だから自力で生きてける」というのは大間違いです。

 

動物医療が発達した現在、室内飼いされているネコの寿命は15年以上に伸びました。

(病気やけがを除く)

しかし、捨てられた野良猫たちの平均寿命は2~3年です。

 

野良猫は決して野生のネコではないのです。

一度家族として迎え入れた仔たちは、その天寿を全うするまで、世話をしてあげて欲しいと切に願います。

 

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